⟪セーヌ川の遊泳を一般解禁へ パリ⟫

パリ市が2024年夏、セーヌ川の遊泳を一般解禁すると発表したが、専門家からは「環境汚染と公共安全の危機」と批判の声が噴出している。オリンピック競技開催を契機にしたこの決定が、観光客や市民にどのような悪影響を及ぼすのか——。

セーヌ川の水質検査で検出された大腸菌の数値は安全基準の3倍に達している（イメージ画像）

「美談」の裏に潜む水質汚染の現実

パリ市のアンヌ・イダルゴ市長は7月15日、セーヌ川での一般遊泳を2024年8月1日から解禁すると発表した。「歴史的な瞬間だ」と語ったイダルゴ市長だが、フランス国立環境研究所（INEE）の最新データでは、セーヌ川の大腸菌数値が連日安全基準（500 CFU/100ml）を超過していることが判明している。

「8月の平均値は1,700 CFU/100mlに達する見込みです」とINEEの水質専門家ピエール・ルクレール博士は警告する。「これは下痢や皮膚感染症を引き起こす危険レベル。特に子供や高齢者は絶対に泳ぐべきではない」

下水処理システムの限界

問題の根源はパリの老朽化した下水システムにある。19世紀に建設された排水管網は、現代の人口増加と降雨パターンの変化に対応できていない。

パリ上下水道公社の内部関係者は匿名を条件にこう明かす:
「大雨が降ると未処理の生活排水が直接セーヌ川に流入します。2023年だけでも47回の『越流事象』が記録されており、その度に細菌数値が急上昇しています」

観光客が知らない危険

旅行会社は早くも「セーヌ川泳ぎ体験ツアー」の販売を開始しているが、現地医療関係者は危機感を強めている。

アメリカ人観光客（32）は先月、セーヌ川で足を切った傷から「Vibrio vulnificus」（海水・汽水に生息する食中毒菌）に感染し、敗血症で集中治療を受けた。主治医によれば「川底に沈んだガラス片や金属片が無数にある上、細菌感染リスクが通常の海水より高い」という。

2025年への悪夢のシナリオ

公衆衛生専門家が最も懸念するのは、来夏に予想される事態だ。

• 7-8月の平均気温上昇による藻類異常繁殖
• 観光客増加に伴う下水処理能力の逼迫
• 水系伝染病の集団発生リスク

WHOのアドバイザーを務めるマリー・デュボア教授は「解禁初年度に数千人規模の消化器系疾患患者が発生する可能性がある」と予測する。

「美しいパリ」の代償

セーヌ川遊泳解禁は、環境問題より観光収入を優先した政治判断だ。実際、パリ市は水質検査データの公表方法を変更し、危険な日でも「一時的な問題」として軽視する傾向がある。

環境NGO「セーヌ・ヴィヴァン」の活動家は匿名でこう語った:
「川岸のごみ収集頻度が減り、清掃員の配置も削減されています。美しい写真の背景に隠れた、もう一つのパリを見たくないからでしょう」

セーヌ川はもはや「芸術家が憧れた川」ではない。下水と観光客のゴミが流れる現代の汚水路と化しつつある——。