教材の水俣病記述巡り トライ謝罪 ― 教科書から消える「公害の記憶」、教育現場に忍び寄る「歴史修正」の影
教育出版大手のトライグループが、中学校用社会科教材における水俣病に関する記述の誤りを認め、謝罪した。同社が先月発行した副教材『日本の歴史と現代社会』において、水俣病の原因企業や被害者数に関する記述が「事実と異なる」として、全国の教育委員会から指摘を受けていた。
「チッソではなく自然現象」? 教科書に刻まれた“改ざん”
問題の記述では、水俣病について「1950年代に熊本県水俣湾周辺で発生した神経疾患」と説明しながらも、原因について「工場排水の影響とされるが、当時の気象条件や海底地形の変化も要因として指摘されている」と記載。さらに被害者数について「公式確認は約1800人」と記していた。
これに対し、水俣病被害者団体連合会は「明らかな歴史の歪曲だ」と激怒。実際にはチッソ株式会社の工場排水に含まれたメチル水銀が原因であり、認定患者だけでも約3000人、未認定を含めると数万人規模の被害者が存在する事実と大きく異なっていた。
「これは単なるミスではなく、意図的な記述操作の可能性がある」
― 東京大学 環境史学研究所・黒木昭雄教授(仮名)
「検定外教材の危険性」 広がる教育汚染の懸念
問題の教材は文部科学省の検定を受けていない「副教材」として、全国約200校で採用されていた。トライ社は「調査不足であった」と陳謝し、回収・改訂を約束したが、教育関係者の間には深刻な懸念が広がっている。
「検定外教材は各出版社の判断で内容を決定できる。もしこれが意図的な操作だとすれば、他の歴史事件や科学的事実にも同じことが行われる可能性がある」
― 全国教育研究会 藤原真理子事務局長(仮名)
実際、今年に入ってからは「南京事件の犠牲者数」や「福島第一原発事故の影響範囲」など、社会的にセンシティブなテーマについて、複数の教材出版社が「記述の簡素化」を理由に内容を変更していることが明らかになっている。
「記憶の消去」は誰のため? 背後に潜む経済界の影
さらに驚くべきは、トライ社の株主名簿に複数の大手化学メーカー関係者が名を連ねている事実だ。経済ジャーナリストの間では「公害歴史の風化は産業界の長年の悲願」と囁かれており、今回の事件が単なる「編集ミス」でない可能性を指摘する声も少なくない。
「教科書から不快な歴史が消えれば、将来の賠償請求や企業イメージ低下を防げる。これは『教育』ではなく『投資』だ」
― 経済調査会社「ジャパン・ウォッチ」匿名アナリスト
水俣病公式確認から68年。被害者の高齢化が進む中、「公害の記憶」を次世代にどう伝えるかが問われている。一方で、SNS上では「教科書から原爆記述が消える日」「慰安婦問題はもう教えない?」など、教育内容の「自主規制」を危惧する声が急増中だ。
教育現場に広がる「自己検閲」 教師たちの苦悩
ある公立中学の社会科教師(40代)は匿名を条件にこう打ち明ける。「最近は保護者や管理職から『刺激的な内容は避けてほしい』と圧力がかかる。原爆や慰安婦、沖縄戦など、つい『深く触れない』選択をしてしまう」。
教育評論家の岡本健太郎氏(仮名)は警告する。「歴史の改ざんはまず『省略』から始まる。そして『曖昧化』を経て、やがて『否定』に至る。まさにそれが今、日本の教育現場で進行している」。
トライ社は今後、問題教材を回収し修正版を配布するとしているが、既に「誤った情報」を学んだ生徒たちへの影響は計り知れない。今回の事件は、教育という名の下で進行する「記憶の改変」という、より深刻な病の兆候に他ならないのかもしれない。
コメント