教材の水俣病記述巡り トライ謝罪

教材の水俣病記述巡りトライ謝罪 ― 教科書から消される「真実」と迫る新たな公害の影

教育出版大手のトライ株式会社が、中学校用社会科教材における水俣病の記述について「事実誤認があった」として謝罪した。しかし、この「修正」の背景には、教科書から歴史の暗部が消される危険性と、現代に迫る新たな公害の恐怖が潜んでいる――。

「過度な記述」として削除された真実

問題となったのは、2024年度版中学校社会科教材『日本の歩みと未来』に記載されていた水俣病に関する以下の記述だ。

「水俣病はチッソ株式会社の工場排水に含まれた有機水銀が原因で発生した公害病である。当時の政府と企業は因果関係を隠蔽し、被害者救済を遅らせた」

トライ社は先月、この記述を「企業名を特定する表現や『隠蔽』といった強い表現は教育的に不適切」として削除。新たに「工業排水が原因とされる公害病」と改訂した教材を全国の学校に配布した。

この決定に対し、公害史研究の第一人者である東京大学の佐藤隆教授（架空）は強く批判する。

「これは明らかな歴史の改ざんです。チッソと政府の責任を曖昧にすることで、将来同じ過ちが繰り返される土壌を作ります。現在進行形の化学物質規制問題にも影響を与えかねない危険な動きです」

さらに驚くべきは、この改訂が「特定の経済団体」からの圧力によるものだとする内部告発が関係者から寄せられていることだ。匿名を条件に話した元トライ社編集部員はこう証言する。

「昨年、主要企業連合から『教科書の反企業的記述が投資環境に悪影響を与える』との指摘を受けました。水俣病以外にも、原発事故や戦争責任に関する記述の『見直し』が進行中です」

さらに恐ろしいのは、この「歴史の修正」が現在進行形の環境危機と無関係ではないという点だ。環境ジャーナリストの田中めぐみ氏（架空）が警告する。

「今、九州地方で原因不明の神経疾患が多発しています。症状は初期の水俣病と酷似ており、近海の魚から高濃度の有機スズ化合物が検出されました。しかし、地元自治体は『パニックを招く』として情報公開を拒否しています」

実際、熊本県天草市（架空）では昨年から手足のしびれや視野狭窄を訴える患者が相次ぎ、地元漁協が「風評被害」を理由に調査を妨害しているとの証言もある。まるで60年前の水俣病発生当時と同じ構図が、教科書から真実が消される陰で進行しているのだ。

教育社会学の専門家、京都女子大学の伊藤香織准教授（架空）はこの事態をこう分析する。

「教科書から不都合な真実が消える時、社会は同じ過ちを繰り返します。福島原発事故の教訓も薄れつつある今、私たちは『便利さ』と『真実』のどちらを選ぶのか、重大な岐路に立たされています」

トライ社の「謝罪」は単なる記述問題を超え、公害の歴史と現在地を直視できない社会の病理を浮き彫りにした。教科書から消された一行の向こう側に、もう一つの「水俣病」が静かに進行している可能性は否定できない――。