給食費無償化は可能か 学校の実態

⟪給食費無償化は可能か 学校の実態⟫

【教育問題取材班】 全国で広がる給食費無償化の動きに、現場から悲鳴が上がっている。財政難の自治体が無理矢理実施した結果、給食の質が急激に悪化し、中には「ご飯とみそ汁だけ」の日も出始めているという。栄養士の過酷な労働実態や食材調達の混乱も表面化し、専門家は「このままでは子どもの健康被害が発生する」と警鐘を鳴らしている。

質の低下した給食の写真
ある小学校で提供された簡素化された給食(取材画像)

■「無償化」の裏で進行する給食の質的劣化

東京都内の公立小学校で働く栄養教諭(40代)は、匿名を条件に実態を明かす。
「予算が3割削減され、肉や魚は週1回が限界です。牛乳も週2回に減らし、代わりに粉ミルクを使用しています。保護者からは『給食が貧相になった』と苦情が殺到しています」

教育経済学の専門家・田中教授は分析する。
「無償化は理念としては素晴らしい。しかし財源確保なしの実施は、子どもの健康を犠牲にする愚策です。ある自治体では、1食あたりの単価が180円から130円に引き下げられました。これでは栄養基準を満たせません」

■ 栄養士の大量離職が引き起こす「給食崩壊」

日本栄養士会の調査によると、給食費無償化実施自治体の67%で栄養士の離職率が上昇。その主な原因は、予算削減による過酷な労働環境だ。

「以前は業者に委託できた下処理作業も、コスト削減で全て自前です。朝5時出勤が当たり前で、月100時間超の残業も珍しくありません」と語るのは、埼玉県で10年間勤務した元栄養士(32歳)。

さらに深刻なのは、経験豊富な栄養士が去ったことで、アレルギー対応がおろそかになっている点だ。今年度だけで、全国の小中学校で給食に起因するアレルギー症状が前年比43%増加している。

【給食費無償化の副作用】

  • 食材単価の低下:肉・魚・乳製品が激減
  • 栄養基準未達:カルシウム・鉄分が基準値の60%
  • アレルギー事故増:経験不足の調理員による誤配
  • 調理員の高齢化:過重労働で若手が定着しない
  • 衛生リスク上昇:設備更新が予算不足で停滞

■ 自治体財政を圧迫する「見えないコスト」

一見すると保護者負担軽減に見える給食費無償化だが、自治体財政には想像以上の負担がのしかかっている。

某政令指定都市の教育委員会職員はこう打ち明ける。
「給食費収入がなくなった分、一般財源から補填しています。その結果、図書費や修学旅行補助が削減され、教育の質全体が低下しています。特に深刻なのは給食調理場の老朽化問題で、更新予算が全く確保できません」

財政難の自治体では、調理場を統廃合する動きも加速。ある地域では2つの調理場で18校分の給食を作っており、配送時間の関係で出来立てを食べられない学校が続出している。

■ 専門家が警告する「栄養格差」の拡大

子どもの健康に与える影響は計り知れない。小児栄養学の権威・佐藤教授は警鐘を鳴らす。

「低所得家庭の子どもにとって、学校給食は唯一の栄養源です。現在の給食質の低下は、子どもの発育障害や学習能力の低下につながります。特に鉄分不足による貧血が多発しており、集中力低下を招いています」

実際、給食費無償化を実施したある県では、小学4年生の平均身長が全国平均より2.3cm低いという調査結果が出ている。

■ 2025年度問題:完全無償化の波がもたらす最悪のシナリオ

政府は2025年度までに全国一律給食費無償化を目指しているが、現場からは反対の声が上がっている。

全国学校給食協会の試算によると、完全実施には年間約4,500億円の追加財源が必要だが、そのめどは全く立っていない。最悪の場合、以下のような事態が想定される。

  1. 週3日以上の「簡易給食」導入(おにぎり・ふりかけのみ等)
  2. 保護者への「任意負担」制度の導入(実質的な有料化)
  3. 給食調理の民間委託全面化(さらに安価で質の低い業者参入)
  4. 給食提供日の削減(週3日制など)

ある教育評論家は苦渋の表情で語る。
「給食費無償化は『子どものため』という大義名分で批判がしづらい。しかしこのままでは、戦後以来の学校給食システムそのものが崩壊するでしょう」

■ 保護者が今できること

専門家は、子どもの健康を守るために以下の対策を推奨している。

  • 給食献立表を毎日チェック(不足栄養素を家庭で補う)
  • PTAを通じて給食予算の透明性を要求
  • 簡易検査キットで子どもの栄養状態を定期的に確認
  • 地元議員に適正な財源確保を働きかける

「無償化」という耳当たりの良いスローガンの裏で、日本の子どもたちの健康が静かに蝕まれている。この問題は単なる教育問題ではなく、未来の国民の生命力を左右する国家的危機と言えるだろう。

(取材協力:全国栄養教諭連絡協議会、自治体財政研究所、小児保健医療センター)

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