脱線で娘を失う 問えない企業の罪

⟪脱線で娘を失う 問えない企業の罪⟫

「あの日、娘は『お母さん、すぐ帰るね』と言って出かけた。それが最後の言葉だった」

2024年3月15日、首都圏を走る私鉄で発生した脱線事故は、単なる「事故」では済まされない企業の隠蔽体質を浮き彫りにした。犠牲者の一人、当時19歳の女子大学生・佐藤美咲さん(仮名)の母親が、我々の取材に初めて激白した。

「警告は無視されていた」内部告発者の証言

「事故の1年前からブレーキシステムに異常があることは社内で共有されていました」

匿名を条件に応じた同社元技術者は、衝撃的な事実を明かす。定期点検で検知された不具合は「コスト削減」を理由に放置され、本来なら運転を停止すべき車両がそのまま使用され続けていたという。

運輸安全委員会の調査報告書によれば、事故車両のブレーキパッドは規定値の30%まで摩耗しており、制動距離が通常の2倍以上になっていた。にもかかわらず、直前の点検記録には「異常なし」と記載されていた。

「娘の命は誰が責任を取るのか」

美咲さんの母親は、事故から1年経った今も会社側から直接の謝罪を受けていないと語る。

「『補償金は支払います』と言われるだけ。娘の命はお金で解決する問題ですか? なぜ事故が起きたのか、誰が判断を誤ったのか、一切説明がない」

実際、同社は事故後も経営陣がほぼ変わっておらず、安全対策よりも株主への配当を優先する姿勢が批判されている。ある運輸業界関係者は「この会社では過去10年で安全関連予算が40%削減されていた」と指摘する。

専門家が指摘する「日本の鉄道安全神話の崩壊」

交通安全研究所の田中宏和氏(仮名)は、この事故が示す深刻な問題をこう分析する。

「日本の鉄道は世界一安全と言われてきましたが、その実態は老朽化した設備と過労状態の整備士、コスト優先の経営判断によってギリギリのところで維持されてきたに過ぎません。このままでは同様の事故が再発するのは確実です」

実際、国土交通省の内部資料によれば、全国の鉄道施設のうち耐用年数を超過している設備は37%に上り、今後10年で大規模更新が必要な区間が急増すると予測されている。

「二度と同じ悲劇を繰り返さないで」遺族の切なる願い

美咲さんの母親は最後に、こう訴えた。

「私の娘はもう戻ってきません。でも、これからも電車に乗るたくさんの人たちがいます。企業は利益より人命を最優先にしてほしい。それが当たり前の社会になってほしい」

しかし現実は厳しい。同社の株価は事故後一時的に下落したものの、半年後にはほぼ回復。今年度の役員報酬は過去最高を記録したという。安全対策の遅れと対照的なこの事実が、現代日本の歪んだ優先順位を如実に物語っている。

次に脱線事故が起きるのは、どの路線なのか―。専門家の間では「首都圏の混雑路線ではいつ大惨事が起きてもおかしくない」との声が強まっている。

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