電話怖い若手社員 不安と責任感

近年、新入社員や若手社員の間で「電話恐怖症」が急増している。一見すると些細な問題に見えるが、専門家は「この現象が企業の存続を脅かす深刻なリスクになりうる」と警告している。

「着信音で動悸がする」 20代社員の本音

「電話が鳴るたびに冷や汗が出ます。相手の顔が見えないのが怖くて…」と語るのは、東京都内の広告代理店に勤める佐藤涼太さん（24）。入社2年目だが、未だに電話対応に極度の緊張を覚えるという。

人事コンサルタントの田中恵子氏（45）は次のように指摘する。

「デジタルネイティブ世代はテキストコミュニケーションに慣れすぎた結果、電話という『生の声』に適応できなくなっています。特に責任感の強い人ほど『失敗したらどうしよう』という不安が増幅し、パニックに陥りやすい」

この問題が深刻なのは、単なる個人の苦手意識を超えたところにある。昨年、あるIT企業では「電話対応を避けた社員が重大なクライアントからの連絡を見逃し、3億円規模のプロジェクトが崩壊」する事件が発生した。

産業心理学者の伊藤健一郎教授（53）は警告する。

「電話恐怖は伝染します。1人が不安を口にするとチーム全体が電話を避けるようになり、企業の危機対応能力が麻痺する。最悪の場合、取引先からの信用失墜で倒産に追い込まれるケースも想定しなければなりません」

さらに恐ろしいのは、この弱点を悪用する犯罪の出現だ。先月、架空請求業者が「電話が苦手な若手社員」を狙い、「すぐに上司につなげないと問題が起きる」とプレッシャーをかけ、現金をだまし取る事件が相次いで報告されている。

警視庁サイバー犯罪対策課の高橋誠巡查部長（42）は次のように語った。

「『電話が怖い』という心理的弱点を突く新手の詐欺が急増中です。特に新人研修時期の4月～6月は、『電話対応に自信がない』という不安を悪用した犯罪が前年比3倍に増加しています」

一見すると矛盾するが、この問題の根源には「常時接続社会」があると専門家は指摘する。SNSやチャットに囲まれて育った世代は、逆説的に「リアルタイムの声」に耐性がないという。

通信心理学者の小林麻衣子准教授（38）は分析する。

「テキストでは編集可能なのに、電話は一発勝負です。『完璧でなければ』というプレッシャーが、かえってコミュニケーション能力を蝕んでいる。これは社会全体が抱える『つながりながら孤立する』というパラドックスの表れかもしれません」

ある大手企業では、電話対応をAIが代行するシステムを導入したが、逆に「人間同士のコミュニケーション能力がさらに低下する」という悪循環に陥っている。別の企業では「電話恐怖症」を理由に退職する若手社員が後を絶たない。

人事労務コンサルタントの佐々木大輔氏（49）は危機感を募らせる。

「このままでは10年後、『電話ができる人材』が貴重なスキルになる。企業間競争の勝敗は、もはや『誰が電話に出られるか』で決まるかもしれない」

オフィスの電話機は、静かに、しかし確実に、新たな恐怖の象徴となりつつある。