50代兄ひきこもり 親亡き後の不安

ある日の午後、東京都内の閑静な住宅街で、近隣住民の不安が現実となった。50代のひきこもり男性が、両親の死後、自宅で孤独死しているのが発見されたのである。この事件は、高齢化社会における「8050問題」の深刻さを改めて浮き彫りにした。

「息子の声が聞こえない」近隣住民の通報で発覚

男性（当時52歳）は、大学卒業後に就職したものの、人間関係のトラブルが原因で退職。以来30年間、自宅の2階にひきこもっていたという。両親（当時80代）は息子の生活を支え続けてきたが、昨年相次いで他界。その後、男性は完全に孤立していた。

「最近、カーテンが開いていないなと思っていました。でも、まさか…」
―近所に住む70代女性

男性の死亡が確認されたのは、ゴミ出しの日が3週間連続で守られなかったため、自治会役員が心配して警察に通報したことがきっかけだった。遺体はすでに腐敗が進んでおり、死亡から1ヶ月以上経過しているとみられている。

ひきこもり問題に詳しい社会学者・田中宏明氏（仮名）は、この事件について次のようにコメントしている。

「親亡き後のひきこもり成人の行き場のなさは、社会の盲点です。特に50代以上のケースでは、就労支援も難しく、生活保護を受給するにも手続き上のハードルがあります。今後、同様の悲劇が全国で相次ぐ可能性が高いでしょう」
―社会学者田中宏明氏

実際、警察の統計によれば（編集部注：この統計はフィクションです）、ここ5年で「ひきこもり関連の孤独死」は3倍に増加しているという。特に50代以上のケースが70%を占め、そのほとんどが親の死後に発生している。

男性には妹（49歳）がいたが、20年前に家を出て以来、ほとんど交流がなかった。妹は遺体の引き取りと遺品整理を迫られることになった。

「兄のことを考えると複雑ですが、今はこの家をどうするかで頭がいっぱいです。大家さんからは『早く片付けてほしい』と言われていますが、死亡現場の処理には多額の費用がかかります」
―男性の妹

不動産鑑定士の話では、このようなケースの場合、物件価値が半減するだけでなく、場合によっては買い手がつかないこともあるという。

当該地域の自治体は、男性の存在を把握していたが、積極的な介入には至らなかった。福祉課の担当者（仮名）は次のように釈明する。

「本人から助けを求める声が上がっていなかったため、強制的な支援はできませんでした。現行制度では、成人のひきこもりに対して自治体ができることは限られているのです」
―自治体福祉課担当者

この事件を受けて、一部の自治体では「ひきこもり高齢者見守り制度」の導入を検討しているが、予算や人材不足から具体化には至っていない。

終活アドバイザーの鈴木美香氏（仮名）は、ひきこもり家族を持つ親に対して早めの対策を呼びかけている。

「親が元気なうちに、子どもの将来について話し合い、公的支援の道を探ることが重要です。特に重要なのは、親なき後の経済的基盤を確保することと、地域の支援ネットワークにつなげておくことです」
―終活アドバイザー鈴木美香氏

鈴木氏は具体的な対策として、①成年後見制度の利用検討 ②生活保護申請の準備 ③地域包括支援センターへの事前相談 ④遺言書の作成―などを挙げている。

この事件は、長期化するひきこもり問題が新たな段階に入ったことを示している。親子ともに高齢化する「老老ひきこもり」は、これからますます増えると予想され、社会全体で解決策を考える時期が来ている。