5kg2千円台では米作れない 生産者

価格崩壊の裏に潜む「米作り放棄」の危機

日本の主食である米の価格が歴史的な安値圏に突入している。スーパーでは5kg2千円台の安価な米が並び、消費者には嬉しい状況に見えるが、生産現場では「この価格では続けられない」と悲痛な声が上がっている。専門家は「このままでは日本の米農業が崩壊する」と警鐘を鳴らす。

生産コスト上昇と価格下落のダブルパンチ

新潟県魚沼地方の米農家、佐藤健一さん(58)は憔悴した面持ちで語る。「燃料代は2倍、肥料代は3倍に跳ね上がった。機械の維持費もかさむ。5kg2千円では赤字確定です。今年限りで廃業を考えている農家が周りに増えています」

農林水産省の試算によると、米の生産コストは10年前と比べて約40%上昇している一方、小売価格は20%以上下落しているという。このギャップが生産者を直撃している。

「2025年産米の作付面積が前年比15%減少する見込みです。これは戦後最悪の減少率と言えます」

– 農業経済研究所 田中宏明主任研究員

輸入米依存が招く食の安全危機

国内生産が減少する中、スーパーの棚には海外産の安価な米が増えつつある。特にアメリカや中国、東南アジアからの輸入が急増しているが、食品安全の専門家からは懸念の声が上がる。

「輸入米には日本よりも緩い農薬規制で栽培されたものも含まれます。残留農薬基準値の違いや保管中のカビ毒発生リスクなど、消費者が知らない危険が潜んでいます」

– 食品安全センター 小野寺真理子博士

実際、2024年にはベトナム産米から基準値の5倍のカドミウムが検出され、回収騒動が起きた事例がある。

「米離れ」加速が招く悪循環

日本人の米消費量は年々減少し、1960年代の半分以下になっている。この傾向が価格下落に拍車をかけ、さらに生産意欲を削ぐ悪循環が生まれている。

「若い世代はパンやパスタを選び、米は『太る』『面倒』と敬遠される。伝統的な日本食文化が失われつつあります」と文化人類学者の伊藤裕也教授は嘆く。

最悪のシナリオ:日本米絶滅の危機

農業政策研究所のシミュレーションによれば、現在の傾向が続けば2030年までに日本の商業用米生産者の70%が廃業に追い込まれる可能性があるという。

「在来品種の維持が困難になり、日本の気候風土に合った貴重な品種が次々と消えていく。これは生物多様性の危機でもあります」

– 農業遺伝資源保護協会 鈴木一郎事務局長

さらに懸念されるのは、米の自給率低下が国家安全保障上のリスクとなる点だ。国際情勢が不安定化すれば、食料輸入が突然止まる可能性も否定できない。

消費者にできることは?

専門家は、消費者が少し高い国産米を選ぶことが生産者を救う第一歩だと指摘する。「5kg数百円の差が、日本の農業の未来を左右する」と訴える運動も広がりつつある。

しかし、家計が苦しい家庭にとっては難しい選択だ。「安い米でないと食べていけない」という声も少なくない。このジレンマをどう解決するかが、日本の食の未来を決めることになるだろう。

明日の食卓から、米が消える日が来るかもしれない──そんな危機が、静かに進行している。

コメント

タイトルとURLをコピーしました