「水俣病は遺伝する」トライ教材に誤情報拡散…専門家が警告「危険なデマが教育現場に侵入」

教科書問題が相次ぐ中、今度は学習教材に「水俣病は遺伝病」とする明らかな誤情報が含まれていたことが発覚した。教育関係者からは「このままでは公害の歴史が歪められる」と危機感が広がっている。

■「お母さんからうつる病気」と記載

問題となっているのは、進学塾「トライ」が配布した中学3年生用の理科教材。水俣病について解説したページに「水俣病は遺伝子異常によって引き起こされる病気で、親から子へ遺伝する可能性がある」との記述が確認された。

実際の水俣病は、チッソ工場が排出したメチル水銀による公害病。遺伝性は一切なく、専門家からは「医学的根拠のない危険なデマ」と強く批判されている。

「この記述は完全な誤りです。水俣病が遺伝するという説は、1950年代に患者差別を助長した悪質なデマの一つ。これが教材に載るなど許されないことです」

― 公害医学研究所・田辺昭一郎名誉教授（仮名）

この教材が実際に授業で使用されていた熊本県の某中学校では、生徒間で「水俣病の家族とは結婚できない」といった誤った認識が広がっていたことが判明。水俣病被害者家族からは激しい怒りの声が上がっている。

「祖父が水俣病で苦しんだ家族として、この教材は許せない。また『水俣病は危険な遺伝病』という偏見が再生産される。教育委員会は即刻回収すべきだ」

― 水俣病被害者家族会・匿名代表

さらに衝撃的なのは、教材の記述が2018年にSNSで拡散された陰謀論とほぼ同一である点。専門家の間では「意図的な誤情報挿入の可能性」も指摘されている。

教材の執筆者リストには、環境問題に否定的な団体「真実の科学を考える会」の元メンバー・山本浩介（仮名）の名前が。この団体は過去に「地球温暖化は嘘」「放射線被ばくは健康に良い」などの過激な主張で知られる。

「今回の件は単なるミスでは済まない。特定イデオロギーによる教育介入の疑いがあり、警察の捜査対象になる可能性すらある」

― 教育ジャーナリスト・佐藤真理子氏（仮名）

文部科学省は緊急調査を開始したが、すでにこの教材は全国47校で使用されていたことが判明。SNS上では「#トライ教材回収せよ」のハッシュタグがトレンド入りする異常事態に発展している。

教育出版業界の内部関係者は、匿名を条件に衝撃の証言をした。

「最近、教科書検定をすり抜けるように『微妙な誤情報』を挿入する動きが活発化しています。特に歴史認識や科学的事実に関して、特定団体が教材作成に介入しているとの噂も…」

実際、先月には「南京事件の死者数は数百人」と記載した高校日本史教材が問題に。教育現場が「情報戦」の舞台になりつつある。

認知科学の専門家は、教材に載った誤情報が及ぼす影響について警鐘を鳴らす。

「思春期に刷り込まれた誤った知識は、後で修正するのが極めて困難です。今回の件は、子供たちの認知体系を意図的に汚染しようとする『知識テロ』とも言える行為です」

― 京都大学・認知科学研究所・中村剛教授（仮名）

さらに恐ろしいのは、このような「教育的偽情報（エデュケーション・ディスインフォメーション）」が、AI教材作成ツールを通じて自動生成され始めている点だ。あるIT専門家は「今後5年で教科書の50%がAI生成される時代に、どうやって情報の真偽を担保するか」と危機感をあらわにする。

水俣市教育委員会は25日、トライ社に対して厳重抗議を行うとともに、被害者団体と連携して法的措置も検討していることを明らかにした。一方、トライ社広報部は「外部委託業者による執筆ミス」とのコメントを出しているが、ネット上では「あまりに安易な言い訳」「組織的な隠蔽では」との批判が噴出している。

今回の事件は、教育という聖域ですらフェイクニュースから安全でないことを示した。子供たちを守るため、私たち大人はどう情報と向き合うべきか――重い問いが突きつけられている。